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ビギナーと共に走るあなたへ

2021.11.2

こんちは。ガイドの平馬です。

私は仕事柄MTBビギナーに講習を行うことが多くあり、その数と時間は日本でも指折りだと自負しています。

今回はそんな『ビギナー』を連れてライドに出かける、

『中・上級者』であるマウンテンバイク経験者の皆さんに向けての書いていこうと思います。




まず最初に、『ビギナー』とはマウンテンバイク業界、ひいては自転車業界の至宝であり、大切に丁寧に育てなければすぐ枯れて無くなってしまう存在です。

知らず知らずのうちに芽を摘んでしまい、ただでさえニッチでコアな遊びであるマウンテンバイクをより世間から遠ざけぬよう、ご参考にしていただければこれ幸いでございます。




ある日のご家族でのツアーにて、レンタルバイクのフィッティングをしていると奥様が何やら怪訝な顔をしていました。

あら、私ったらさっそく何か失礼なことをしたかしら。

と、その理由を聞いてみると、

「私、今日はサイクリングだって聞いてきたんですけど、、、あの、え?山を走るんですか?こんな自転車で?」

とのことでした。

またある日の中上級者向けのエピックライドツアーの際、一人ペースが遅れ気味で、明らかに余裕のない方がいました。

あら、私ったら気付かずペースを上げすぎかしら。

と、雑談まじりに伺ってみると、

「僕、先月MTB買ったばかりで、そのお店のお客さん同士で西伊豆に行くからとりあえず一緒に行こうよって言われて、、そんなに難しくないし大丈夫って言われてたんですけど、すごい怖くて、、すいません、遅くて」

とのことでした。




これらは極端な例ですが、「そんなに登らないよ」「あと少しだよ」「そんなに難しくないよ」「そんなに急じゃないよ」などなど、言ったり言われたりしたことがある方もたくさんいらっしゃるでしょう。

めちゃくちゃ登るし、あと2時間かかったし、歩くのもやっとだったし崖みたいだったことでしょう。

これはビギナーと経験者の『認識のズレ』が原因であり、ズレてることに気づかない経験者の多さが芽を摘んでしまっているかもしれないのです。

今回はそんな『あるある』であり由々しき問題である『ズレ』を少しでも無くし、裾野を広げMTB人口を増やし、ひいては日本各地で抱えている森林問題の解決の糸口になれば、などと大風呂敷を広げてみます。




ビギナーと私たち経験者の間には『共通項』がありません。

基本姿勢である『ニュートラルポジション』『アタックポジション』などの用語はビギナーには何のことやらさっぱりです。

ではもう少し噛み砕いて『ペダルに体重を乗せる』『真ん中に乗る』『BBに乗る』ではどうでしょう?

これなら分かるでしょ!なるほどこう言えばよかったのか〜と思ったあなたはまだまだズレてます。




では実際にバイクに立ってもらい、べダルを水平にして腰を少し後ろに引き、適度に肘と膝を曲げてもらいましょう。

いくら何でもこれなら分かるだろと思ったあなたも、残念ながら少しズレてます。ビギナーは『バイクに立つ』がよく分かりません。が、だんだん直ってきています。あと少し。




次は実際にバイクに跨ってもらい、あなたは倒れないようにしっかり支えましょう。

椅子と言わないと分からない場合もあるサドルに座っている状態で、バイクを左右にゆっくり揺らしてみてください。

乗っている側はバランスを崩してつい足を出したくなり、あなたはバイクを保持するのに精一杯になるはずです。

次に支えている自分を信じてもらい、ペダルに膝を伸ばして立ってもらいましょう。

そして再びバイクを揺らし、さっきよりも『耐えられる』感覚を体感してもらってください。

その時、さっきまで座っていた椅子(サドル)が膝の間で動けるようになり、その分余裕ができたからですよ」と付け加え、ビギナーのシナプスをしっかり繋げましょう。

片足荷重になってもらい、両足に均等に体重が乗っている方が安定することを体感してもらいましょう。




この時にもしっかりシナプスを繋げるべく、「足元には岩や切り株があり、ペダルが当たると転倒の原因になる。ペダルは地面から離した方がいい。では、ペダルが地面から一番離れるのはどの位置ですか?」と聞いてみて、ビギナー自らが『ペダルは水平』のカタチが良いと納得できるよう促しましょう。

『路面』ではなく『地球』と水平などと言ってみるのも良いかもしれません。

こうしてようやく、ビギナーと我々経験者の間に『ペダルは水平』という『共通項』が出来上がるのです。




ペダルが水平になった頃、多くのビギナーはハンドルに寄りかかった状態『前傾姿勢』になっています。

平な路面では慣れ親しんだ姿勢に感じるビギナーもいますが、段差を使ったり後輪を持ち上げることで『下り』の状態を体感すれば、恐怖を感じるはずです。

誰しも恐いのは嫌です。恐怖を取り除く方法を教えてあげてください。

「腰を後ろに引いて」「お尻を下げて」ではちょいズレです。




具体的に分かりやすく、「お尻を後ろのタイヤに乗せるように」と伝えましょう。

この時、最大でこれくらいまで引く場面もあることも伝えてください。

ビギナーの多くは、この最大値の姿勢をとっているつもりでも、実際には20cn程度しか動いていない場合がほとんどです。

『最大』まで腰を下げる(引く)という『共通項』を作り上げましょう。




実際に段差や坂道を使うとより明確に理解できるので、身近にある場合には活用してください。

後ろの最大値が分かってもらえたら『前』の最大値も教えましょう。

私はよく、サドルより前はデスゾーンという言い方をします。

大袈裟かもしれませんが、あながち間違いではないと思っています。

前後の最大値をわかってもらい、『可動域』の共通項ができれば、アドバイスもしやすく伝わりやすいはずです。

あとは可動域の中で自分なりの中心を探ってもらいましょう。「0になる」というセリフが、今のところ一番分かってもらいやすいです。




このようなプロセスを踏み、シナプスを繋げて初めて、ビギナーと経験者の間に『共通項』が生まれます。

こうして出来上がった『共通項』をもとにアドバイスやレクチャーをすることがとても重要で、それ意外はほとんど伝わってないと言っても過言ではないと思います。




長々と『ニュートラルポジション』について書いてみましたが、これが完璧だとは全く思っていません。

もっと分かりやすい教え方があるだろうし、もっと的確に教えている方もいらっしゃるでしょう。

とにかく言いたいのは、ビギナーとの間に共通項を作り、ビギナーに寄り添ってあげてくださいということです。

ビギナーはいつだって怖くて、もう辞めたいと心の中で何度も叫びながら、それでもほんの一握りの『楽しい』に必死に食らいつこうとしている儚い存在なのです。


これであなたは昨日よりもビギナーに寄り添えているはず。

たくさん共感して、出来ないことを指摘するよりも少しでも良くなった所を褒めてあげてください。




そしてもう一つ、ビギナーと共に走る、同じくビギナーのあなたにも伝えたいことがあります。

同時期にMTBを始めた者同士でも、少しづつ『ズレ』は生じます。

この『ズレ』は、たまたまかもしれませんが、異性間でよく見受けられます。




旦那様または彼氏がMTBを始め、一緒について行くようになったけど全然上達しないし、むしろ私がいると旦那・彼氏が楽しめてないんじゃないか。そう思うと何だか余計に怖くなってどんどん乗れなくなってる気がする。




なんて感じているビギナーはたくさんいるんじゃないでしょうか。

もちろんアベックに限らず、同性間でもグループでも。

次のような場合を考えてみましょう。




同時期にMTBを始め、それがきっかけで付き合うことになったAとB。

何度かライドをするうちに、オートバイに乗っていたAはオートバイとの『共通項』を見つけ上達、Bはまだまだ怖くてスピードが出せません。

そうするとBはAに気を使い後ろを走るようになります。

ライドの途中、Aはなかなか来ないBを待ち、Bのチグハグなライドを見ます。

AはBにアドバイスをします。すると自分の発した声が自分の脳に届き、Aの理解度はさらに深まります。自分自身と共通項があるのは当然なので、言ってることがよーく分かるからです。

Bには共通項がないのでAのアドバイスはピンと来ず、ただ『出来ない自分』に焦り、よりチグハグなライドになってしまいます。

そのチグハグ加減を見たAは、もっとこうすればいいんだと、Bに教えたつもりが自分で吸収して更なる成長を遂げ、Bとの差はますますひらいていきました。

そのうちAはBに対し「なんでできないんだ」と苛立つようになります。

楽しかったMTBやAとの日々は段々としんどくなってきました。

そしてAは、よりレベルの合うCとDという仲間を見つけ、彼らとライドに出かけるようになりました。

さてこうなった時、Bは新たにFやGをライドに誘うでしょうか。




週末はCやDとライドに出かけてばかりですれ違いの日々を過ごすB。

誕生日や記念日もライドの予定に上書きされていきました。

Aがライド中に怪我をして全治1ヶ月を言い渡された時は、しばらくMTBに乗らなくていい、Aと会える時間が増えると喜びましたが、デートの行き先はいつもバイクショップ。

そしてBのことなどほったらかしで、店長や常連とMTB談義を繰り広げるばかり。

怪我が治るとこれまでよりもライドに行く回数が増え、雨降りの週末にライドに行けずイライラしているAと過ごす時間は少しも楽しくありません。

そんなAとの関係やマウンテンバイクに対しての愚痴を親友でもあるHに話しました。

「そんな危ないことやめた方がいいよ!あとそいつとも別れたほうがいいよ!」

BはとうとうAと別れ、同時にMTBからも離れてしまいました。




月日は流れてBにも新しい出会いがあり、親友Hの恋人とダブルデートの計画を立てました。行き先はHの実家のある静岡県。

楽しい旅行の道中、大山主でもあるHの祖父母の家に寄ることに。

幼い頃からBを可愛がっていたHの祖父母は久しぶりの再会を喜び、大いに歓迎してくれました。

「そういえば最近な、」

とHの祖父が、書斎から数枚の書類の束を持ってきました。

「ウチの山に自転車のコースを作りたいって人がいてな、えー、マウンテンバイクとか言ったかな」

「え、」とB。

「俺も山に行くには体がしんどいし、このまま荒れ果てるよりは誰かに使ってもらった方がいいと思ってるんだが、どう思う?」

顔を伏せたままのBの代わりに、Hは顔色を伺いながら、これまでの経緯をポツポツと語りました。

最後まで黙って聞いていた祖父はグシャッと書類の束を丸めると、部屋の反対側に置いてあるクズカゴに向かって放り投げました。

低い放物線を描き、クズカゴの手前に落ちた書類の束はBのすぐ手の届くところに転がりました。

確かにMTBには嫌な思い出しかないけど、MTBが悪いわけじゃない。おじいちゃんもAの話を聞かなければ使ってもらうつもりだったろうし、何より大好きなおじいちゃんの山が荒れ果ててくのは嫌だ。

Bはシワクチャになった書類を拾い上げ、破れないよう丁寧に伸ばしながらおじいちゃんに差し出しました。

「きっとこの人たちは山のことも考えてくれてるんだろうし、おじいちゃんが困る方が私は嫌。だから貸してあげたら、、」

言いかけながら、伸ばし終えた書類に目を落とすと、『Shizuoka MTB park project』という題名と共に、『責任者:A』というシワシワに歪んだ文字がありました。




さて、このプロジェクトはどうなるでしょうか?

バタフライエフェクト、風は吹けば桶屋が儲かるのです。




流石に悪ふざけが過ぎました。すいません。




AがオートバイとMTBの間に『共通項』を見出し上達したように、ビギナーのあなたにも『何か』との共通項があるはずです。

それを見つけ出してシナプスが繋がりスパークした時、あなたのライドは飛躍的に上達するはずです。

しかしそれをライド中に見つけ出すのは至難の技。

ライド後の振り返りも大切にしましょう。

また経験者の皆さんは、自分が体得した共通項を教えてあげてください。

教えることで自分自身の理解が深まり、教え方も上達するはずです。

1つ教えて10学ぶ人なんて稀です。

10教えて1学んでもらうつもりで、根気よく丁寧に育ててあげてください。

そして自分なりのスタイルを見つけ、たくさんの人と共有し、MTBの裾野を日本いっぱいに広げましょう。




ここまで読んでいただけたのなら、『Bはいい子』という共通項が、私のあなたの中にも出来ましたね。

長々と偉そうに書きましたが、『ビギナーと共に走るあなたに』送ります。

みなさま、いいMTBライフを。

上記の内容をフル無視したこちらの記事も合わせてご覧ください↓↓

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