TRAIL TRIP IN CAUCASUS〜始まりの町へ〜
2017.10.25どうもこんにちは。平馬です。
TRAIL TRIP IN CAUCASUS、始まります。
今回の旅は、もちろん重要なことではありますが、美味しいワインとチーズをたらふく食べようというのが目的ではございません。
もしそれだけなら、テントや寝袋、その他の仰々しい装備も必要ありません。
空港ではテレビだと言われ、職員にはお前ら一体何を持ってきたんだよと白い目で見られながらも遥々マウンテンバイクを持ってきたのには理由があります。
それはバイクパッキングです。聞きなれない方もいるかと思いますので説明しますと、
この写真のように自転車に荷物を搭載し旅をすることです。
詳しくは、日本で初めてのバイクパッキング本を執筆した北澤氏の記事が載っているこちらをご覧ください。
様々な定義や楽しみ方があるかと思いますが、僕にとっては『登るときはめっちゃ大変だけど下りは早いし楽しいよ♪あとキャンプもできるし歩くより遠くに行けるよ♫』くらいのものでした。
そして当然、テントを持っていくとなればそれなりの場所に行くわけです。そうです、この旅の表題にもなっているコーカサス山脈に向かいます。
ちなみに地図でいうとこの辺り。
よくわからない方もいるかもしれませんがそのままで大丈夫です。
そして今回向かう地域はトゥシェティと言って国立公園にも指定されており、ジョージアの中でも『秘境』と呼ばれている地域です。
そして実際にバイクパッキングを行うルートはこちら。
さっきよりわからなくなった方がたくさんいると思いますが大丈夫です。おいおい分かります。
一応説明しますと、標高1400mに位置する左上のシャティリ(Shatili)なる村から、マーカーの付いている3431mのアツンタ峠(Atsunta pass)を越え、右下の標高1800mのオマロ(Omalo)という村までの100kmの行程です。
どうですか?うわマジかよって思いました?僕は思いました。
根がインドア派な僕には、100km?しかもその途中に2000m登って?寝泊まりはテントで?‥なるほど(白目)って感じでした。
しかし!そんなことを思っていても気づけばここはジョージア、そして始まりの町シャティリに向かうタクシーを探しているのだからもう腹をくくるしかありません。
黒目を戻してしっかり前を向いていかねばならんのです。
さぁ前置きが長くなりましたがいよいよ旅の始まりです。
トビリシのダウンタウンにある『Hotel ISAKA』を出発。
ツボが分からないロシア風美人スタッフにしばしの別れを告げるため、自転車を担いでロビーにおりました。
「僕が戻るまで、この(要らない荷物が入ってる)段ボールを預かって欲しい。危険な旅になるが必ずここに戻るよ、君のために」
って英語で何ていうんだろうと考えながら下に降りると知らない男性スタッフいて、しばらく留守にすると伝えるとOKじゃあ一日4ラリで荷物預かっとくわ、いってら。と言われ宿を後にしました。
前日聞き取り調査をしたところ、目的の村までは3000mの峠を越えねばならないらしく、デリカじゃないと無理だとのこと。
デリカ。そう、あのデリカです。ツアーの際に僕らが使っていて、なんなら成田空港までも乗ってきたあのデリカです。
タクシーが集まる地下鉄駅の周辺をぐるりと見渡すとほとんどはジャーマンのセダンかジャパンのコンパクトカー。
たまに「やっちゃえ」と聞こえてきそうなワンボックスカーがありましたがとても3000m峠を越えれそうにはありません。
なるほどデリカというのは『峠を越えられる車』の代名詞なのかと考えながら、近くにいたステーションワゴンのドライバーに話しかけました。
へ「シャティリまで行ける?」
ド「?」
へ「シ ャ テ ィ リ」
ここで英語がわかるらしいホームレスがフラフラと登場
ホ「シャティリに行きたいんだとさ」
ド「?」
いやもうお前何語ならわかるんだよとツッコミたくなりましたが、唐突にドアを開け歩き始めるドライバー、
ついて行く僕、とホームレス。
近くのタバコ屋の店員(女性/美人)に何やら話しかけるドライバー。
美「シャティリ?」
へ「そう!シャティリ! いくらかかる?」
美「dhgfsdfh’あ;sd986」
へ「?」
美「はぁー(ため息)‥」奥に人を呼びに行く。
カウンターの横の扉が開きおじさん登場。
お「ん?何?」
へ「シャティリに行きたいんだけど、いくらかかる?」
お「シャティリ?えー、300ラリだよ。な?そうだろ?」とドライバーに話しかける。
頷くドライバー。だとさと言って微笑むおじさん、ドヤ顔で小銭をせびるホームレス、お前なんもしてねぇだろ!と払いのける僕。
へ「自転車を載せたいからデリカがいい」
お「?」
へ「自転車!これ!」
お「はぁー(ため息)‥」隣の薬局に人を呼びに行く。
一人の店員(女性/かわいい)が出てくる。
へ「自転車を載せてシャティリまで行きたいのですが、おいくらでしょうか?」
周りのドライバーたちに自転車を載せてシャティリまで行きたいらしいことを伝えるかわいい店員、小銭をせびるホームレス。
周りのドライバーたちは「デリカだ」と口々に言う。いやだからそれはわかってんだよ!だからデリカだといくらかって聞いてるじゃないですか!ンア!?なんだお前まだいたのか!わかったよ、はいどうぞ!とホームレスにテトリ硬貨を渡す僕。まったく一体どうすりゃいいんだ!
そこにドライバーを連れて戻ってきたBOSS、「350だって」
ふぅーとため息をつき振り返るとホームレスの姿はありませんでした。
朝7時、トビリシは冷たい雨が降っていました。
なんとかデリカを手配した僕ら。350ラリ、単純計算で17,500円。高いような気もしましたが、ジョージアの秘境と言われる地域に、自転車を載せ、さらにはオフシーズンということを考えれば妥当な値段だと感じました。
ドライバーよりも手際よく3列目のシートを跳ね上げ、テキパキと前後輪を外し自転車を積み込む僕ら。
あ、これこんな風になるんだと感心顔のドライバーを尻目に、やっと出発できると安堵しました。
よし行こう!とドライバーを振り返ると、なんのつもりかコーヒーを注文していましたが、郷に入っては郷に従え、彼のコーヒーブレイクが終わるのを待つことにしました。
時刻は8時。さっきよりも少し、雨はおさまっていました。
それからぼーっと灰色のトビリシの街を眺めていると何やらもめているような声が聞こえてきました。
声の主は、昨日話を聞いたタクシードライバーでした。
「俺の客だ!」といっているように聞こえました。
確かに最初に話を聞いたのはあなただ。今日になって鞍替えして罪悪感が湧かないわけではない。でも‥でもっ!
「そいつらは俺のデリカで行くんだ!俺の客だ!俺の!デリカで!行くんだ!!」
と、そんなふうに凄む彼が乗っていたのは、ホンダのステップワゴンでした。
周りになだめられたステップワゴンが去り、ドライバーのコーヒーがカラになったところでいよいよ出発です。
トビリシのハイウェイ。市内もそうですがほとんど信号がなく快適なドライブのスタートです。
郊外に出てすぐに給油。ガソリンの値段は日本とそれほど変わらないのを見ると、タクシーが割高なのも頷けます。
上から2番目と一番下は何が違うのだろう、ドライバーのおっちゃんはどっちを入れんたんだろうと思いながら、少し眠気を覚えました。
郊外の集合住宅。ブレてしまってますが、拡大すると窓の一つ一つに細かく生活感が刻まれていてたまりません。
こんな攻めた建造物もたくさん。
食べ物や自然も素晴らしかったですが、建築を見る旅としても十分に楽しめる国だと思いました。
30分ほどであたりの近代建築は姿を消し、代わりに雄大な地形が見えてきます。左の木々には紅葉も見られます。
紹介が遅れましたが彼がドライバーのおっちゃん。
慣れていないはずの英語を使い積極的にコミュニケーションをとろうとしてくれる姿に好感が持てました。
2時間ほどして、宿泊していた地域と反対側のダウンタウンを抜け車は峠道に。
放牧中の牛たちがこの先の旅を暗示しているように感じました。
一体それどっから持ってきたの?何に使うの?という巨大な石。結局わからず終いでした。
ここまでの道中、道の荒れ具合は前回のラダックとよく似ていますが周りにはたくさんの緑がありました。
さらには広葉樹の木も多く、さながら西伊豆の林道を走っているかのような錯覚を覚えました。
目的のシャティリに行くためには3000mの峠を越えます。
そのため徐々に標高は上がり気温は下がって行きます。
タバコを吸うためか、5cmほど開けっ放しになっている運転席側の窓から入ってくる外気は僕の膝を直撃し続けました。
寒さを回避するため膝に置いた手のひらはとても暖かく、僕をズルズルと眠りに引きずり込んで行きました。
そして完全に睡魔の餌食となる直前に撮った写真がこちら、
え、めっちゃ雪降ってるやん‥。
この写真の存在は帰国後に気づきました。途中、太陽に照らされキラキラと輝く白銀の景色が見えた気がしましたが、夢か寝ぼけているのだと思っていました。
だっていま九月ですよ?
車に揺られ5時間ほど、到着は昼過ぎでした。始まりの町シャティリに到着しました。
早速バイクを車内から取り出し組み上げます。BOSSが後輪をはめるのに手こずっていましたが特に気にしませんでした。
シャティリの村の第一印象は、寂しい村。
オフシーズンなので当然でしょうが人気はなく、代わりにあるのは白みががった土色がむき出しになった山肌と、それに溶け合うように色を変えつつある木々の葉の色でした。
鼻の穴の入り口がひりつくほど乾燥した風に吹かれながら、あぁ、秘境に来たのだなと感じました。
いつのまにか僕らの呼び名が「My friend」になっていたおっちゃんと別れの固い握手を交わし先ずは腹ごしらえ。
果たして飯を食わしてくれるところなんかあるんかいなと思いながらペダルをこぎ出しました。
走り出して数メートル、BOSSの「んん?」という声で立ち止まりました。
どうやらチェーンがうまく回らないようです。
「おいおい大丈夫かい?おおかたチェーンを掛け違えたんだろう、相棒がそんな調子だと先が思いやられるぜ」なんて笑顔でBOSSに近づきました。
が、事態は深刻でした。
なんと、リアタイアのハブからカセットがポロリと落ちたのです。
よくわからない方に説明しますと、雪道になったのでタイヤにチェーンを巻こうとしたらタイヤごと取れちゃったようなものです。
(的を得ていないのはわかりますが僕らも初めてのことだったので‥それくらいどうしようもないことが起きたと感じていただければ幸いです。)
ともあれ、道の真ん中であたふたしててもしょうがないので無理矢理タイヤをはめて走り出しました。
「バイバイ、マイフレンド!」と手を振り走り去って行くおっちゃんを見送り万事休すかと思いました。
そして再び走り出すこと数メートル、BOSSのリアタイヤが軽い砂埃をあげました。見るとさっきまでフラフラと浮いていたカセットが元あるべき場所に戻っているではありませんか!
タイヤが回る遠心力でどうにか収まった11枚の歯車を眺め、「よかったね」という僕に「まぁこれがダメなら一台で行こうと思ってたけど。その方が軽いしね笑」とBOSS。
「まったく、やれやれだぜ」
安心したところで腹が減っていたのを思い出した僕らは、レストランと書かれた登りが揺れる一軒の家に向かいました。
この建物、驚くことに全て薄い石を積んで作られています。ここから先こんな建造物がたくさんでできますが、詳しい説明はまた後ほど。
ランチをやっているようなのでここで食べることに。
出迎えてくれたのは彼、
映画の中から飛び出して来たような顔立ちになぜか花柄ピンクのガウン姿。
彼は僕らを見るなり中に招いてくれました。
中にはなんともアンティークな棚が。そしてディスプレイされているのはほとんどが酒、だったと思います。
彼は挨拶もほどほどになぜか猟銃を僕に手渡しました。どうだ?というワクワクした表情で見つめる彼に「ナイス」とだけ答えると、満足そうに頷きました。
なんだったんだろう?と思うと同時に、お酒をご馳走してくれんかなと思いましたが叶いませんでした。
そしてふとテーブルに目をやると、
チーズです。こんな状態のチーズがナチュラルに置かれているのを見るのは初めてでした。トムジェリ感がすごかったです。
そしてお待ちかねの昼食。
かなり豪華でした。一番手前は薄切りのナスにニンニクベースのペーストを乗せたもの、真ん中はボルシチ風のスープ、鶏肉が入ってました。その右隣は唐辛子?のピクルス、左奥はさっきのチーズ、一番奥は生トマトとキュウリのピクルスでした。
スープに入ってるパクチーやナス、匂いの強いチーズなど苦手なもの満載でしたが自然と口に運び、美味しいと感じました。
腹ごしらえを終えた僕らはシェティリの観光名所でもある『石の砦』に向かいました。と言っても小さな村ですので200mほどの移動でしたが。
かつては侵略を防ぐための砦だったどうで、全て石を積んで作られています。
有名な観光地のため、ネット上にたくさんの情報があるので詳しい説明は割愛させていただきます。
さてこの石の砦、見た目の美しさもさることながら、なんとゲストハウスになっているのです。
お値段は一泊二食付きで60ラリ。辺境価格とはいえお安いのではないでしょうか。
宿の受付からだいぶ登ったところにある看板。電話はできませんね。
宿で飼っているのでしょうか?牧羊犬風なワンコがおりました。
とても人懐こく、宿から出て戻ると入り口で待っていて、部屋まで先導してくれました。最高でした。
バルコニーに自転車を置かせてもらいました。まだ綺麗でフレームの色まではっきり見えますね。
部屋に入りベットに寝転がりました。体が心地よく沈み、危うく寝てしまいそうでした。
そんなさなかの一枚。株式会社キャラバン様よりご提供いただいた『5.10 GUIDE TENNIE』です。
こちらもまだ色がわかるほどに綺麗ですね。この旅の足元を支え続けてくれた大切な一足です。
さて所変わって宿のキッチンにお邪魔しました。
立法体の薪ストーブが備えられ中はとっても暖か。上部でお湯も沸かせる優れた設計です。
冷蔵庫にはなぜか無数のウォーリーのシールが。
彼女は妹でしょうか?ガールフレンドでしょうか?顔立ちからして妹でしょう。
宿の内部。荒っぽい作りでしたがしっかりしていてとても綺麗でした。
僕らの部屋は3階に位置するらしく部屋を出るとすぐに階段がありました。
3階から降りる階段は螺旋階段。少し急でしたが雰囲気がありました。
2階から1階に降りる階段は壁に沿って作られていました。
壁は木材を重ねて貼ってあり、西伊豆BASE TRESを彷彿とさせました。
壁際の処理の無骨さも同様です。
かつては塔と塔を結ぶ通路だったのでしょうか、今は使われておらず奥に発電機が置いてありました。
トイレめっちゃ綺麗でした。便座の突き刺すような冷たさに驚き、あぁ、ぼかぁ日本人なんだなと感じました。
外に出ると満点の星空でした。もう少し綺麗に撮れた写真はまたの機会に。
一夜明けて出発の朝。
ここから2、3日はベットで寝ることはないのだぞと自分に言い聞かせました。
だったらせめてもう少し君のそばにと思いましたが、太陽が僕らを急くように登り始めました。
宿のスタッフ、イーサ(美人 彼氏あり)に別れを済ませいざ出発です。
ふと山に目をやると「君らどう見ても詰んでるやん」という牛たちを発見。
どうするのだろうとしばらく見ていると、
「あ、そこ道あったんだ」という岩壁を歩いて行きました。
この先そんな困難な道が待ち受けようと、彼らのように一歩づつ歩いて行こう、きっとその場からしか見ることのできない道があるはずだ!
と、このブログを書きながら思いました笑
さようならシャティリ、ありがとうイーサ。
やっと始まったTRAIL TRIP IN CAUCASUS!
これからどんな旅が待っているのでしょう、乞うご期待!それでは!
平馬